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発売半年で14万台突破! 女性の心をつかんだ「睡眠美容」

「最近、キレイになるヒマがない。」

 この冬、こんな刺激的なコピーが書かれた車内広告があった。電車のドアに貼られた新製品の小さな広告だったが、思わずドキリとさせられた女性が多かったのではないだろうか。

 仕事に、プライベートにと働く女性は忙しい。その分、肌の手入れに割く時間はどんどん少なくなっているという。それは、「これじゃマズイな」と思う女性がどんどん増えていることの裏返しでもある。広告のコピーは、その心理を見事に突いたものだった。しかも、刺激的なコピーより一回り小さな文字で、「寝ながらエステ」などとも書いてあるのだから、もう気になってしかたない。

 多くの女性が、おそらく瞬時に反応したであろうその広告の新製品は、パナソニックのスチーム式美容器「ナイトスチーマー ナノケア」である。昨年11月に発売され、当初の販売目標を大きく上回ってヒット商品となった。

「寝ながらエステ」という言葉からも想像がつくが、ナイトスチーマーの基本コンセプトは「ながら美容」だ。これは2007年3月ごろまでには、すでに固まっていた。製品開発の中心メンバーの一人、パナソニック電工ビューティ・ライフ事業部商品企画グループ課長の太田馨子さんがいう。

「これからの美容商品はどんな方向に進むべきか。06年4月から1年間、商品企画やデザイン、マーケティングなどの女子社員6〜7名が集まって、週1回程度の割合でディスカッションを行ってきたんです。女性の社会進出が進んで、1日のうちで自分に投資できる時間には限りがある。美容にだけ時間を割くのはなかなか難しくなっています。美容商品も、ユーザーが何かをしながらできるものでなければ受け入れられないことはわかっていました。では、お風呂に入りながらか、朝食をとりながらなのか。いろいろなアイデアはあったのですが、やはり"寝ながら"だろうとなったのです」

 通常、スチーマーは風呂上がりの肌を保湿するとき、あるいはクレンジングする前に、肌を柔らかくするためといった際に使うのが一般的なのだという。

 すでにパナソニックには、テレビを観ながらでも使えるスチーマーがあった。それでもユーザーからは、「面倒だ」「使う時間がない」「手間がかかる」といった声が上がっていた。

 また、マーケティング調査では、スチーマーについて、購入意欲はあるものの、ためらう三大理由として、(1)高価格、(2)効果があるのかわからない、(3)使い続ける自信がないとの結果が出ていた。

 高価格はコストダウンで解決できる。効果については、「nanoe(ナノイー)」という、非常に保湿効果の高い超微細な水粒子を発生させる独自技術でクリアできる確証があった。

「使い続ける自信がないという理由を払拭させるにも、寝ながら使える仕組みにすればいいという結論にゆき着きました」(パナソニックウェルネスマーケティング本部商品グループビューティ・エイジケア商品チーム主事・山田詩織さん)

■コンセプトはいいが効果はあるのか安全性は大丈夫か

 当時、パナソニックが販売していたスチーマーは、人気が一巡していた。美容事業部門としては、次期スチーマーの開発もテーマの一つとして俎上に載っていた。「寝ながら」のコンセプト+新しいスチーマーという流れは、当然のように決まった。 しかし、言うは易く行うは難し、でもあった。
「実際に、寝ながら使った場合にどんな問題があるのかを検証しなければなりません。そこで、店で売られているスチーマーや加湿器などを寝ながら使ってみたんです。すると、スチームの温度が高くて熱かったり、息苦しかったり、スチーム発生音が気になったりといろいろ問題があることがわかりました」(太田さん)"寝ながら"美容のスチーマーの商品化の企画は、担当役員の納得を得るのも簡単ではなかった。「コンセプトはいい。しかし、ユーザーにどうやって使わせるのか。寝ているときに使う際の安全確保は大丈夫なのか。寝返りをうったときにも効果があるのか。ユーザーは本当にそれを求めているのか、などといろいろ質問されました」(太田さん)

 コンセプトはよくても、在庫の山になったら困る。担当役員にしてみれば、慎重に判断するのは当然のことだ。 それでもチャレンジしたい。開発メンバーたちの気持ちが落ち込むことはなかった。担当役員に対しては、太田さん自らがたびたび説得を試みて、「美容効果があれば、製品化する」ことに決まった。

■デザインは球体四角い回路基板をどう詰め込むか

 クリアすべき課題はまだまだあった。例えば、新製品のデザインだ。睡眠時に使うので、スチーマーはベッドや布団の脇に置く。いくつか試作模型をつくってユーザーに見てもらったが、「大きすぎる」「かわいくない」「安定感に欠ける」といった意見が出た。そのなかで太田さんが温めていた、あるデザインが「かわいい」「おもしろい形」などと支持された。

 それは球体だった。今度は、技術者が困った。

「回路基板など、家電製品に使われている部品の形状は四角。部品レイアウトがもっとも難しいのが球体です。しかも、スチームとナノイーを発生させるデバイスが優先される。最終的には、通常なら1枚でいい四角い基板を3分割で配置して、なんとか球体に収めました」(パナソニック電工ビューティ・ライフ事業部ビューティ商品開発グループエステ商品開発主担当・藤原充氏)
 安全性については、あらゆる想定の下で確保しなければならない。

「例えば、スチームの温度です。寝ているときに、万が一、噴き出し口に顔が近づいても火傷しない温度にしなければなりません。そこでファンを回してスチームの温度を下げることにしました。睡眠を妨害しないように静音性の高いファンにしています。もちろん、スチーマーが倒れたときは自動的に停止する。睡眠中に使う製品だけに、検証項目数は140と通常のスチーマーよりもかなり増えました」(藤原氏)

 こうして苦労して完成した試作品だが、美容効果がなければ製品化はない。

「ナイトスチーマーを使った人と使用しなかった人の肌を2週間後に比較しました。ナイトスチーマーを使った人の肌は、肌の潤いが維持されていて効果があった。数値としても実証されたんです」(同技術開発グループ技師・エステ評価開発担当・岸本篤子さん)

 07年も暮れようとしていたころだった。担当役員の決裁が下り、製品化が決定した。発売時期は、冬場で肌が乾燥する時期に合わせて08年11月となった。

 発売まで1年もない。5000台の月間販売台数は、前評判がよくて1万台に変更された。発売後は、ネット上などで口コミでも広がり、大ヒット商品となった。

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